過去と未来とローストビーフ。

【雨の降る公園】
晩秋の雨の日の公園に、傘をさして携帯を弄る男の人がいた。
22時をまわり、お世辞にも夜の適切な過ごし方とは言い難い。
こういう人を見ると、ときどきどうしようもなく妄想が広がってしまう。


なぜ、彼は雨が降る寒い夜の公園で携帯を弄っているのか。

・理由も無く弄っている
・家に帰るのが億劫だ
・雨の降る夜の公園が好き
・恋人との待ち合わせ
...etc

あ、もしかすると、ポケモンGOかもしれない。
いずれにせよ、彼には「おかえり」と言ってくれる家族がいることを願う。


【顔馴染みが持つ魔力】

別に「おかえり」に限った話ではないが

【一定の基準を超えた人×挨拶】
が持つ効力はとても絶大なのではないかと、思っている。

現在、地元の西小山・武蔵小山武蔵小山ネットワーク(通称:MKN)という
自転車で10分以内の距離に住む平均年齢20代後半の若者が30人くらいのコミュニティを作って活動している。

自転車で10分なので、最寄り駅も被っていることが多い。

朝の通勤時間帯に被ったり、帰宅ラッシュに被ったりすることも稀にある。

気心の知れたメンバーに出会うと、なんだろうか、疲れが吹っ飛ぶ感覚を得られる。
自分は気がついていなくても、向こうから声を掛けてくれると「おっ!」となる。

最近、この「おっ!」という感覚がとても大切な気がしている。



【期待値】
「おっ!」という感覚は「見た目が汚い、大して美味しそうではないお店に入ってみたら、想像以上に美味しく、しかも安かった」という感覚に近いと思っている。

上記の経験をお持ちの人はわかると思うが、期待値が低いと、その期待値を超えるのは容易い。

期待値が1だとすると、2以上であれば「おっ!」となるのである。

「なんだ、結構やるじゃねえか」と。

しかし、ミシュラン3星で予約も取れにくく、しかも値段も高めのレストランだと確かに美味しいことは間違いないのだが、なにか些細なことを気にしてしまったり、「この値段だからこのクオリティは当たり前かな」と思ってしまうことがある様に、期待値が50000だとすると、50000以上にならないと「おっ!」とはなりにくい。


その点、帰り道で気心の知れた友人に出会い声を掛けて貰うことは、全く予期せぬ出来事であるので、「おっ!」となりやすい。
そして、この期待値を超えた時に、人は抱えていた悩みや仕事の疲れなどとは別のベクトルに意識が向くために、疲れが吹っ飛ぶ感覚を得られるのではないだろうか。


【ローストビーフと5年間】
5年間、会社近くのお弁当屋さんでお昼ご飯を購入していた人の話を例にとってみる。

退社する5日前に「辞めることになりました。今までお世話になりました。」と話をしたらしい。
社内では「5年間も通ったのだから、最後になにかオマケがあるのではないか。」という話が密かに話題になっていた。

最終日、ローストビーフをプレゼントされていた。

しかも、丁寧に紙の包装に包んである状態で。
いくら、5年間通い詰めたとはいえ、ここまでのことは誰も想像していなかった。
せいぜい、鶏のから揚げが付いてくるくらいのイメージであった。

完全に、期待値を超えられたわけである。

大都会の小さなお弁当屋さんが、粋なはからいを見せてくれたこの日の出来事は、きっと、これかも記憶に残り続けるはずだ。
少なくとも  ー当事者ではないがー  私の記憶には残り続ける。
これも昔は存在したであろうお店と常連さんのコミュニティのカタチかもしれないと思いつつ。

短い間ではあったが、大きな感謝と少しの寂しさと共に、ローストビーフを噛みしめた。
11月29日が”いい肉”の日なので、ローストビーフは前日の売れ残りというオチでは無いことを心から祈って。